●図書のご案内
今般、旧職員山崎秀雄先生より同窓生松本嘉幸さん(高23回 昭和46年卒)が書かれた図書のご案内と書評が、下記のとおりありましたのでご紹介いたします。(平成20年/08/23)
●アブラムシ入門図鑑、松本 嘉幸 著
239ページ、A5版、オールカラー、
2008年6月20日発行、定価2,800円+税、
発行所:全国農村教育協会、東京都台東区東1-26-6 〒110-0016
電話 03−3833−1821
普通の昆虫図鑑だと、虫の写真とその分類上の特徴などが載る。それで、種類分けができる。ところが、アブラムシは“なまものと偏食”これらを加味して種名が分かるようにしたのが、本書である。アブラムシは採集してそのままにしておくと腐ってしまい、チョウやカブトムシのように乾燥標本ができない。食物は植物の師管から液を吸うのだが、植物を選ぶので、植物の種類が分かるとアブラムシの名前が分かる。
第1部はアブラムシの概説、他の昆虫と比較して、著しく異なるのが生殖法で、世代交代をする。無翅の雌から単性生殖で子虫が生まれる。このときは卵胎生なので、アブラムシの生殖口から子虫がでる。低温・短日の条件下でオスとメスが生じ、交尾をして越冬卵を産む。亜科によっては、生殖に加わらないで、外敵を攻撃する兵隊アブラムシが生じ種もある。生活史は一概には語れない。
アブラムシ科内のグループ(亜科)の特徴を述べているのは、種類分けの時に、大きく分けることに役に立つからである。そこより、生活史を読むのはおもしろい。
第2部は植物の種類ごとにつく、アブラムシの解説である。花卉や蔬菜栽培をすると、“憎きアブラムシ”で、ただ駆除一辺倒になる。ところが、本書を使い、種名を確定するためルーペで見ると、きれい、可愛い、だけど死んでもらわなければの気持ちになる。家庭農園をする人には必須の書。植物を見るとき、花は無くても、虫こぶがある、若い茎にアブラムシがついていれば、これはどんな種類かと、虫のいる植物を見るのも楽しくなる。
230種の解説は同社の専門書の「日本原色アブラムシ図鑑」の240種に比べてひけをとらない。同書が1983年刊行に比べれば新しい知識が加わっている。
第3部はアブラムシの得られる環境と採集法でこれから、アブラムシの研究を目指す者への指針となる。ここに述べられた研究方法は、アブラムシに限ったものでなくすべてのジャンルに該当し、研究方法の指針となる。
第4部はアブラムシの標本と標本作製法、生物を生徒・学生に教える立場の者は一読しておく必要があろう。
第5部は植物の属とアブラムシ種リスト。これがないとアブラムシの名前は調べにくい。ありがたいことに、寄生部位、外見上の特徴の記録がある。加えて、アブラムシの学名は入れずに、生息時期を入れてもらえれば、一般の人は使いやすいであろう。また、本書の各所に必要に応じて関連ページが示してあるので、本書を余すとこなく利用できる。
この著書が出るきっかけは同社の野外観察ハンドブック「校庭のクモ・ダニ・アヌラムシ」(浅間 茂・石井規雄・松本嘉幸 共著)2001年があり、これをきっかけに同社主催の野外観察大学では、彼のアブラムシの解説は大人気であった。身近なムシをあつかっているのでご覧いただきたい。
以上、同窓の皆さんにお勧めするための書評らしきものを書いた。これだけでは、単なるお薦め文になるので、著者のことを、2、3記してみる。
著者の松本嘉幸さんは、高等学校23回(昭和46年・1971年)の卒業生である。私はこの学年(高校)を1〜3年まで担任したが、彼の担任になることがなかった。彼の高1の担任は生物の浅野貞夫先生であった。彼は一時、軟式野球部に席を置いたことがあるので、顧問としてよく知っていた。
彼が、アブラムシを始めたのは大学生になってからである。当時、分類を志すことは、先人が拓いた道は狭く苦労は多く、また、研究が滞ったことも多々あったであろう。アブラムシは害虫が多いので、著名害虫は良く研究されていたが、系統分類に関しは、知見が少なかった。また、アブラムシは綺麗でなく、採集意欲の湧かない虫である。採集したアブラムシはアルコール漬けとして保管する。それを顕微鏡で種名を確定するために、プレパラート標本にする必要のある種もあり、それは、一作業である。
種の確定にはアブラムシがついている幼植物(花がない時期)の正確な種名を知ることが必須条件である。アブラムシは寄生植物の選択範囲が狭いからである。近似種の多い植物は、専門に研究している人でないと分からない。植物の同定には多くの方にお願いしたという。
幸い、彼のもと担任の浅野先生は植物の同定に関しては、第一人者であった。先生は千葉県立長狭高校を定年となり、本校に赴任されていた。長狭高校時代から千葉県の植物界では知らない人はいなかった。彼が研究を始めた頃は本校を去られていたが、植物を持って先生のご自宅に足しげく通った。浅野先生との出会いは彼の研究に弾みをつけたと言えよう。
なお、浅野先生の著書は本校の図書館にあるので、ご覧いただきたい。
山崎 秀雄 記
(高校6回、1964年4月〜2001年3月まで教諭として勤務)
|